プロジェクトを追う
PROJECT 02いま、できることは
何か!?「感染予防対策
ユニット」が
生まれるまで。前編
コロナ禍のなか、
自ら動いて製品を
生み出した社員たち。
2020年、新型コロナウイルスによって世界は激変した。
感染が世界中に広がり、WHO(世界保健機関)がパンデミックと認めたのは3月11日、日本で初めての緊急事態宣言が発出されたのは4月7日だった。
それらよりも早い2月、ニッタのエアクリーン製品を扱うクリーンエンジニアリング事業部では、新型コロナウイルスと闘うための新製品をつくろうと打ち合わせが始まっていた。
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壽 章夫
クリーンエンジニアリング事業部
営業部
ケーシング開発課
課長 -
中村 佳男
クリーンエンジニアリング事業部
営業部
ケーシング開発課
- これは空気感染じゃないのか?
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2020年2月上旬、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が横浜港に停泊し、船内での感染拡大が問題となり始めていた。ニッタのクリーンエンジニアリング事業部の開発部門であるケーシング開発課の課長 壽章夫は、その報道を注視していた。
当時はまだWHOなど専門家の間でも、“新型コロナウイルスは、接触感染はするが、空気感染はしない”という見方が大勢を占めていた。しかし壽は船内での感染の急激な広がり方を見て、「これは、もしかすると空気感染もしているのではないか」と考えていた。
むろん壽は感染症の専門家ではない。しかし、長年エアクリーン製品に携わり、空気中の菌やウイルスを除去するための製品を開発してきた経験とカンが働いたのだ。
エアクリーン製品のメーカーとして、新型コロナウイルス対策の製品をつくって、この事態の役に立てないか。そう考えた壽は、課のメンバーに「試作品をつくろう」と持ちかけた。
中村佳男も持ちかけられたメンバーの一人だ。「みんな気持ちは同じでした。われわれが持っている技術で今、できることは何だろう、と考え始めたんです」と中村は語る。
- ニッタのエアクリーン製品とは?
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クリーンエンジニアリング事業部では、空気をキレイにする数々の製品をつくっている。
納入先の代表例は、製薬会社の研究室や工場、病院の手術室やICU(集中治療室)、半導体製造工程のクリーンルーム、食品メーカーの工場など。ほかにも、ショッピングモールなどで空気清浄用に使われている例もあり、意外なところでは、海岸にある空港やテーマパークの建物もある。潮風による塩害が課題で、潮風から塩分を取り除くためにニッタのエアクリーン製品が活躍している。
製品をまったく一から開発をしているのでは時間がかかってしまう。そこで壽たちは、すでに販売していた移動式の製品に目を付けた。それは、固定式の製品とは異なり、災害など何か急なできごとで空気が汚染された際に、隔離用のスペースをつくり、そこへ運び込んで使うといった場面を想定した移動式製品だ。
「実は、私が海外ドラマ『24』に感化されて開発した製品だったんですけどね」と壽は茶目っ気たっぷりにいう。しかし実際は、真剣に世界の動向を見て開発された製品だ。グローバル化が進む中で、海外から未知のウイルスが国内へ入ってきたり、バイオテロが起こったりする危険が高まっているのではないか。そんなときに隔離病室をつくれる移動式の製品が必要になるのではないか、と考えたのだ。「“こんなモノがあれば世の中の役に立てる”という思いを込めてつくった製品だったんです」と壽はいう。
しかし、2012年に発売したその空気清浄ユニットは、ほとんど売れていなかった。SARSやMARSの被害から逃れた日本では当時、感染症への危機感は薄く、移動式のユニットは興味を持たれなかったのである。
壽たちはこの製品をベースに、おもに医療機関での使われ方を予想して空気の吸い込み口の位置を変えたり、殺菌灯の機能を付け加えたりして、試作を進めた。
「既存の製品をベースにすることで、開発をスピードアップできたんです」と中村。ほとんど誰にも見向きされていなかった製品が、新型コロナウイルスという特殊な事態で、突然、表舞台に飛び出してきたのだ。
製品はできた。だが売ることができない!?
急いで試作品を仕立てたメンバーは、3月の会議にそれを諮った。営業部内では新型コロナウイルス対策の製品開発にはGOが出たが、“もっと使いやすいよう薄くしたり、作動音を抑えたりできないのか”といった意見もあった。
開発課のメンバーは、さっそく試作品を改良していく。同時に、他の案を出し、全部で3種類の製品を7月までに販売できるようにしようと決めた。
中村もその中の一つの製品を担当して、設計や試作を進めた。「毎週、みんなでミーティングをして、病院などでの使い勝手を考えながらワイワイガヤガヤ、“もっとこうするほうがいいんじゃないか”なんてアイデアを出して進めていきました」
そして、彼らは3種類の製品を7月6日の開発委員会に提案して、販売開始の決済を取り付けた。
それまで新型コロナウイルスの空気感染を認めていなかったWHOが、ようやく「空中に浮遊する極小の粒子(エアロゾル)で感染する可能性は除外できない」と発表したのは、翌日、7月7日のことだった。
製品はカタチになった。だが、すぐに販売できるわけではなかった。なぜなら感染対策のためにリモートワークが広く推奨されるなか、営業販売活動ができなかったのだ。
そんな状況で、新製品を世の中の役に立てるにはどうすればいいか。
まず7月、8月には、医療機関へ寄贈する活動を進めた。それまで手術室用のエアクリーン製品を納入するなど取引があった大学病院に寄贈し、待合室に置いてもらった。また、奈良県赤十字血液センターの献血ルームなどにも寄贈した。
一方で、ニッタの本支店や工場にも置いてまわった。「リモートワークができない職種も多いので、社員に安全に安心して働いてもらうために役立てばと考えたんです」と壽はいう。
だが、本格的な販売ができない期間は、しばらく続いた。