営業販売活動がほとんどできない時期、壽たち開発メンバーはエアクリーン製品以外に、別の取り組みもしていた。ニッタでは、病院のレントゲン室の空調用に「放射線用フィルタ」を納入している。その使用済みのフィルタは放射線を含んでいるため、廃棄するためには専用のビニール袋が必要で、それも併せて納入をしている。
各地の病院で防護服が不足していると聞き、その袋を防護服に仕立てて、病院に寄贈したのである。
「困っている人たちがいるんだから、とにかくできることは何でもやってみよう、という気持ちでした」と壽はいう。
2020年10月2日、ニッタはついに新製品の発売を、公式に発表した。
当初はなかなか製品の存在が知られず、急に注文が入ることはなかったが、徐々に知られるようになってくると、12月頃からは、次々と注文が舞い込むようになった。年が明けて2021年になると、さらに受注のペースが上がってきた。
ほとんどは医療機関。その多くが新型コロナウイルス対応病院からの受注である。“待合室に置きたい”、“診察室で患者さんの後ろに置いて医者への感染を予防したい”、“入院患者のベッドのそばに置きたい”。そんなニーズで引き合いが増えてきた。それらのニーズは、開発メンバーが想定したとおりだった。
壽の発案により、製品を納品するときには、営業担当だけではなく、技術担当もできるだけ同行し、顧客である医療機関の生の声を聞くようにした。
中村も技術担当として実際に現場へ出かけていく。「実物を見たときに、みなさんに“これはいい”と言っていただけるんです。“薄くてコンパクトで、診察室や病室に置くのにちょうどいい”と。私たちが考えたカタチが喜んでもらえるのはうれしいですね」
今回の新型コロナウイルスが今後どう終息していくのかは、この記事をつくっている2021年春時点で、まだ誰にも見通せない。しかし、これが終息したとしても、何らかの世界的な感染症の危険は今後も続くといわれている。そんな中で、ニッタのエアクリーン製品が果たせる役割は、小さくないはずだ。
会社から命じられたのではなく、開発メンバーが自主的に取り組んだこの1年を振り返って、中村はいう。
「自分で考えてすばやく動くことが大切なんだな、とあらためて感じました。私の場合なら、設計屋として何ができるか。難しい時期、厳しい時期でも、できることは必ずあるはずですからね」
そして、壽はいう。「世の中で何が求められているか、常にアンテナを張って感じ取り、考えることの大切さを痛感しましたね。そして自ら動いてみれば、関わってくれる人たちからもアイデアがでてくるんですよ。チームワークってこうして生まれるんだな、と再認識しました」
ベルトやホース・チューブ製品といった、裏方ながらも社会を支える製品をつくり続けているニッタ。エアクリーン製品も、まさにそうしたニッタらしい製品の一つとして、これからも着実に社会の役に立っていくだろう。